満月の夜に【鬼滅の刃 煉獄杏寿郎 宇髄天元 R18】
第18章 宇髄先生とわたし -出会と恋慕- 前編
式は滞りなく進んでいく。
しかし波奈は、校長の挨拶も、来賓の挨拶も、気が気ではない。心臓が口から出そうで、足もガクガクしてきた。膝に置いてる手の中は、汗でぐっしょりだ。
本当に、わたしに、代表挨拶ができるのだろうか。
できることなら逃げ出したい。
あぁ、どうしよう、もうすぐ新入生代表が呼ばれる。
ピン、と視線を感じ、チラッと横を向くと、宇髄先生がこちらを向いて何やら訴えるように波奈を見ていた。
先ほどとは違い白いシャツのボタンは上まできっちりと閉められ、黒のネクタイをカチッとつけている。
宇髄先生は口をパクパクとさせている。
ん?なに?
宇髄先生の口元をじっと見つめると
『に ん じ ん 』
『は く さ い』
と必死に野菜を訴えかけている。
あぁ、そうか、人は野菜、野菜。
と、先程のやりとりを思い出してクスッと笑ってしまった。
そう思うとスッと身体の緊張が解けてきて、
来賓の方々や、在校生、新入生が野菜に思えてくるから不思議だ。
『お前にとっては、俺は俺でいーの』
と言っていた宇髄先生を思い出す。
チラッとまた宇髄先生を見ると、赤い目を細めて口角を上げて微笑まれた。
他は野菜で、宇髄先生とわたしだけが人で、2人だけの空間みたいだ。
なぜかカッと顔が熱くなる。
けど、
さらにどうしてだか、ものすごく安心する。
じんわりと心が温かくなる。
心強い何かが、勇気が、とてつもなく湧き上がる。
「新入生代表 沢田波奈」
「はい!」
声が体育館に響く。
立ち上がり、壇上へと登る一歩を進めた。