満月の夜に【鬼滅の刃 煉獄杏寿郎 宇髄天元 R18】
第17章 おかおをみせて※《宇髄天元》
「ーーー波奈?」
「ーーーえ、」
いきなり呼ばれた声にびくっとして、持っていた薬瓶は手から滑り落ち、ガシャン!と割れる金属音で、さらに身体が固まった。
床にはバラバラに割れた薬の瓶が散らばり、液体の薬が床にしみをつくっていた。
「あ!」
蝶屋敷。波奈はここで働く医療者だ。
そうだ、今は薬を調合しているときだった。
「ちょっと波奈!なにぼんやりしてるの」
同じ蝶屋敷で働くアオイが怒気を含んだ声でこちらに近づく。
「アオイさん…っご、ごめんなさ…っ」
おろおろとする波奈に、アオイは冷静にほうきで瓶を片付けていく。波奈も瓶のガラスの破片がないか、細かに見つめて、こぼれ落ちた薬液をふいていった。
「波奈、薬は他の考え事してたらだめだよ、集中しないと!」
「う…はい、ごめんなさい…」
別のこと、主に宇髄さん、のことを考えていた。
不甲斐ない…!夜のわたしといい、昼の働くわたしといい、何一つうまくやれない。
「そうだ波奈!ちゃーんと集中して薬を作れ!」
とつぜんカラコロ…と宝石が揺れる音が耳元で聞こえて、
「ええっ?!う、うずいさん?!」
大きく圧倒的存在感のある隊服姿の派手な音柱が、床を拭いている波奈に頭上から声をかけた。
それには波奈もいきなりのことでびっくりする。
「おいおい、こんなミスめずらしーね。ちゃんと寝てんのかー?体調管理は責務の一つだぞ」
「なっ…!」
誰のせいでっ…!
と言いかけたが辞めた。アオイが近くでもくもくと薬を調合している。
三日三晩ほとんど寝させてくれなかったのは、紛れもない目の前の宇髄天元様なのに、本人はククっと波奈のほうを揶揄うように笑っている。
「音柱様!こちらで何をしてるんです?!」
ムッとした顔でアオイは宇髄をじとっと睨んだ。
「わりーね。これから任務の前にこいつに会いたくて」
宇髄は笑いながら大きな手で波奈の頭をわしゃわしゃと撫でる。会いたいという宇髄の直球の言葉で、んっ、と波奈は顔を赤らめる。
「今日は忙しいんですから、すぐに返してくださいね!」
いつものことだった。宇髄がこうやって波奈に会いに来てちょっかいをだすことも。アオイは半分呆れながら宇髄に言った。