第1章 出会いの日
「あの、何かありましたか?私、失礼なことでも言ってしまったでしょうか」
整った顔立ちの異性が無言でこちらを見てくるのは滅多にないことだけれども迫力があってむしろ怖い。
聞いても何も答えてくれないのでほんとにどうしたらいいか分からず、視線を思わず外していまう。
すると視界の端からサボさんの手が伸びてくるのがわかった。
突然のことだったので、思わず目を瞑ってしまう。
しばらくしても何もなさそうだったので、そっと目を開けてみるとサボさんの手は私よりももう少し上の位置にあった。
その手に沿って視線を上げるとどうやら私の頭を撫でようとしてくれているみたいだった。
触れることはできないにしても、その手つきはとても優しい。
「えっと、あの。これは一体何を…?」
状況を理解することがワンテンポ遅れて、さっきようやく頬の熱を冷ましたというのに、またすぐに熱が集まってくるのを感じた。
「ん?こうしたらちょっとは寂しくないんじゃないかと思ってな」
「え?」
頭を撫でる手を止めることはせず、サボさんの口から寂しいという単語が出た。私、心の中で言ったつもりだったけど、口から出てしまってた?
「俺、弟がいるんだ。麦わらのルフィって言うんだ。知ってるか?」
「えっと、いえ。知ってはいるのかもしれないですが、この体になってから生きていた頃の記憶が全くないので…」
そう、初めて会って名前を聞かれて答えれなかった時、嫌な予感があった。その予感は見事的中してしまい、何度も思い出そうとしても頭の中が真っ白になってしまって何も出てこない。
自分はどこにいたのか、どんなところに住んでいたのか。
自分を作っているはずの大切なものが、この体になってから全てなくなってしまっていた。
そんな私を見てもサボさんは同情の目は見せなかった。
ただまっすぐ、今の私を見てくれていた。
「そうか。そいつが俺の弟なんだ。小さい頃一緒に過ごして、最初は弱虫で、泣き虫なあいつの面倒を見ているうちに自然と本音が顔に表れているのがわかるようになってた」
さっきとはまた違った優しい顔。家族に向ける顔。
今の私にはきっとできない顔。
大切にされているんだなって言うのがわかって、また羨ましくなった。