第1章 出会いの日
「だからだろうな、のことがなんとなくわかるのも」
きっと生きていたころでもここまで、異性の人から言われたことなんてないだろうに。
サボさんって、知らない間にファンを増やしてしまうタイプなんだろうな。
誰からも好かれて、輪の中心にいる人。
そばにいるだけでその姿が容易に想像できてしまう。
どうしてサボさんはここまでこんな私に優しくしてくれるんだろう。
まだ会ってから1日しかたっていないのに、ここまで優しい人がいるなんて。
この世は不公平だ。なんて誰かが言っていたけれども、本当にそうなのかもしれない。
少なくとも私みたいな平々凡々な人間からしたら、きっと関わることすらしないタイプだったと思う。
人間性だって私はここまでできていない。
「サボさんって、優しいを体現している人ですね。素性もわからない、ましてや生きてすらいないこんな私にも気をかけてくれるし」
それまでずっと私の頭を撫でるような素振りをしていたサボさんの手がピタッと止まりそのまま降ろされた。
「俺はそんなにできている人間じゃねぇよ。ただ自分が何を、どうしたいのかに素直に従ってるだけさ」
そのままサボさんは廊下を進んでいく。
感じることはできなくても、ついさっきまで頭の上にあった温もりがなくなってしまい、少しだけ寒くなって気がした。
もう少し撫でていて欲しかったな、なんて。
自分が思っていることにハッとして、その考えを振り払うかのように頭を振ってサボさんの後を再びついていく。
再び部屋に戻ってきた。
他の人がいないこの空間にちょっとほっとする。
いやというわけではないが、大勢の人の中にいると気疲れをしてしまう。
戻ってきてからはサボさんは相変わらず書類と睨めっこをしていた。
部外者で幽霊である私は手伝うことも、休憩のためにお茶を入れることもできず、ただ空中をふわふわと浮いているか、サボさんの部屋の中を散策するかのどちらかになる。
とは言っても、サボさんの邪魔にならないようにひっそりと行っている。
どのくらい経ったんだろう。
朝食を食べて戻ってきてから、お昼をすぎてもサボさんはずっと机に向かっている。
それも段々と表情は険しくなっている。