第1章 出会いの日
「サボさんはすごいですね」
「別に何もすごくねぇよ。やりたいことがあるから、そのために俺はできることをやるんだ」
それがすごいんだけれどもな。
きっとこの人にとってはそれが普通に思えるくらい強い覚悟があるんだ。
私はどうだったんだろう。
わからないけれども、絶対にこんなに立派な考えはもっていないだろうなと言うのは予想がつく。
「よし、最低限の奴は確認したし朝飯に行くか」
いくつかの書類をまとめて手にもつと、扉に手をかける。
「い、行ってらっしゃい」
すると、サボさんはピタッと動きを止めてしまった。
な、何か間違ってしまったかな。
行ってらっしゃいなんて馴れ馴れしすぎた?そもそも朝ご飯行くのに行ってらっしゃいっておかしかったのかな…!
どうしたらいいのかわからなくて、1人おろおろしてしまう私を見て
「来ないのか?」
そう言った。
不思議そうな顔をしてこちらを見ている。
そんな風に見られる亜なんて誰が思っていただろう。
「え、いや。私がこの部屋から出るのは良くないかって思いまして」
「大丈夫だろ、外に触れていた方がいいさ。ずっと部屋にいたら気が滅入っちまうし、思い出せるものも思い出さないかもしれないだろう」
しばらくは俺と一緒にいたらいいさ。
そう言って、そのまま私が来るのを待ってくれている。
なんでこの人はこうも欲しい言葉を言ってくれるんだろう。
その暖かさがひどく優しくて、嬉しくて、自然と口角があがる。
「はい!」
食堂に来れば、たくさんの人がそこにいて食事をしている。
みなさん楽しそうに会話をしながら口にそれぞれ好きなものを運んでいるみたい。
その様子が新鮮でキョロキョロと見ていると、サボさんも手慣れたようにご飯をもって席に着く。
そこにはさっきのコアラさんともう1人、魚人の方がいた。
「あ、サボくんやっと来た」
「まぁな、一区切りついたからな」
大きな口をあけて、お皿の上の物が次々と消えていく。
その間でも、コアラさんはお構いなしにサボさんに仕事の話を振っていく。
私が聞いていても全然わからないお話ばっかりだけれども、食べながらも仕事の話ができるなんてサボさん器用だな。