第1章 出会いの日
「ところでサボくん、朝ごはんは?」
「あぁ、これ終わったらいくよ」
「わかった、じゃあ後でね」
そう言って女の人は部屋から出ようとするけれども、扉の近くに私がいるのはよろしくない状況では?
サボさん以外の人が見えない保証なんてどこにもないし…。
呑気にやりとりを見ている場合ではなかったかもしれないと今更ながら思うけええれども、女の人はくるっとこちらを向いた。
心臓が口から飛び出そうになるくらい、思わず私はぎゅっと目を瞑ったけど、私に気づくこともなく部屋から出て行った。
バタンと音を立ててしまったことを確認すると、一気に力が抜ける。
「そんなにびびることか?」
私の様子を見ていたのか、ちょっとからかったような笑みをこちらに向けてくる。
やっぱり意地悪。
でもそんな反応を楽しんでる自分がいるのだ。
「だって、サボさん以外の人に見えないっていう保証はないじゃないですか」
少し拗ねたように頬を膨らませてみる。
「あぁ、それに関しては大丈夫だろう。現にコアラも見えてなかったしな」
「コアラさん?」
「あぁ、今出て行った奴のことな。あいつも気配とかには敏感なやつだけど、入ってきた時点で全く気づいてなかったからな」
手元の書類に視線を戻して、作業を進めていく。
流石に離れた距離で話すのもあれかと思い、そろっと飛んで近づく。
昨日眠る前に自分が何をできるのかを軽く確認していたら、さすがというべきかこの体だとふわっと浮かぶことができるのが分かった。
この分だと壁を通り抜けることもできるんだろうな。
ますます自分がそういう存在になっていることが信じられなくなっている。
「サボさんって、どういう人なんですか?」
それは昨日も思った純粋な疑問。
確実に普通の人ではないし、さっきの女の人も私のような平凡な人ではないことはすぐにわかった。
「俺たちは革命軍。この世界を変えるために、日々戦っているんだ」
「革命軍…」
海賊も、海軍もわかるけれども革命軍のことはよく知らない。
いろんな組織があって、それぞれが目的のために動いていいる。
世界を変えるなんて、私にはスケールが大きくて全然わからないけれどもそれでも言葉にできるのがすごいと思った。
記憶がなくなる前の自分はわからないけれども、少なくともそんな立派な人間ではない。