第1章 出会いの日
「お前がどういう経緯でここにいるのかわからないが、何かわかるまではここにいたらどうだ?」
「え、いやでも…」
「記憶ないんだろ。少なくともここにいるっていうことは何かあるのかもしれねぇし、流石にこのまま放っておくのもな」
確かに、自分がなんでこんな状態になったのかを知るにしても1人でいるよりは絶対いいし、特に今は何もわからないから誰かといたほうが得策なのかも。
それに、サボさんちょっと怖そうな人だけれどこんな私に対しても優しくしてくれるんだから根はすごくいい人なんだろうな。
自分でそう解釈していくうちに少し心が軽くなった気がした。
「しばらくご迷惑おかけしますが、改めてよろしくお願いします」
握手は残念ながらできないので、諦めてその場でお辞儀をする。
というか、私はいつまでこのベッドを占拠しているんだろう。
そもそも、ここにサボさんがいらっしゃるってことはお休みになりにきたはず。それなのに私がいて、このやりとりで時間もそこそこ経っている。
そう考えると、さっきまで自分がとんでもないことしていることにようやく自覚した。
「わ、私ってばいつまでベッドの上にいるんでしょう。ごめんなさい…!」
とにかく早く休んでもらわなくちゃ。
その一心で、ベッドから起き上がる。
今までの自分がどういう人物だったのかわからないけれども、心臓がドキドキして、変わらないはずなのに顔が熱を持っているように感じる。
少しでも気を紛らわすように、片手でパタパタと顔をあおぐ。
「あぁ、いや。別にいいんだけどな」
そうい言いながらもサボさんはベッドに体を滑らせるとそのまま一気に眠りに入ってしまった。
あまりの速さに呆気に取られながらも、それだけ疲れていたんだろうし、私のせいで休む時間が遅くなってしまったことに申し訳なさを感じる。
時間が何時かはわからないけれども、夜が深くなっていくのはなんとなくわかる。
明日になったら、色々聞いてみよう。
そう思って私も扉の近くまで移動し、座り込んで朝を待つことにした。