第1章 出会いの日
「名前、わからねぇのか?」
「え、あの。その、ごめんなさい」
罪悪感が勝ち、段々と声が萎んでいってしまった。
「そうか、お前もこの間の俺と一緒か」
「え?」
一緒?そう言ったのかな。
小さくてよく聞こえなかった。
「お前、記憶がないんだろ」
確信をもった目で言われた。
じっとこっちを見て、私から視線を外すこともできない。
頭の中がグルグルと回って、だんだん自分の体が現実から離れていくような感覚になる。
「う…、はい」
名前どころか自分に関して何も出てこないのも確かだし、この人が言うように記憶喪失なんだろう。
でも、そうなると余計に私がなんでここにいるのかが全くわからない。
「あー、とりあえず俺はサボ。よろしくな、」
そういって握手をもっとめて手を出してくる。
「?」
「あぁ、お前の名前な。名前がわかんねぇんだ、それなら新しいのをつけるしかないだろ」
。
きっと本当の名前ではないのだろうけれども、それでも名前があることによって私はここにいてもいいって思えてしまう。
それがどうしよもなく嬉しかった。
「はい、サボさん。ありがとうございます」
手を出してくれているサボさんに合わせるかのように私とサボさんの手が触れ合う。
…はずだった。
本来ここで握手というはずなのに、私の手はサボさんの手をすり抜けてしまった。
これには時間が止まったかのように二人とも動けなかった。
今私たちの目の前に起こった現象はなんだろう。
頭の処理がまた追いつかなくなった。
サボさんに至っても、口と目を開けたまま固まってしまっている。
「え?」
何回か握手に挑戦してみるも、その度に手がすり抜けてしまう。
よく見ると、心なしか自分の体も薄い気がした。
ひとつたどり着いた答えを信じたくなくて、両手を目線まであげる。
自分の手の奥でサボさんの顔がうっすらと見える。
「…嘘」
私の状況を理解したサボさんもポリポリと頭をかいて、どうしたものかと考えている。