第1章 Mistake
適当に乾かした髪はそのままに
貰ったPRADAのワンピースに着替えた
早くこの場から離れたい、私この先どうなるんだろう
離れる前に通報しなきゃ…自首しないと…それにさっき中で出された…妊娠したかもしれない…どうしよう
グルグルと思考を巡らせ背中のファスナーに手を掛けようとした
「蘭…さん…?」
ファスナーを上げようとした手を握り、背後からファスナーを上げられてしまった
腰に腕を回され洗面所へ誘導されると大きな鏡の前に立たされる
鏡の中に映る私とその男の姿
バスタブに入った時と同じ要領で背後から抱きしめ肩口に顎を乗せられた
「どー見ても俺に似合う女だよなーちゃんって」
鏡越しに見つめられ、ふと私の名前を初めて呼ばれた事に気づく
ああ、知ってるんだ…って当たり前だよね
「……あの、ワンピース…ありがとう」
「つかPRADAを着た悪魔じゃん、人殺しちゃったんだし」
いや、PRADAを着た悪魔は人殺しじゃないし、このワンピースどこかで見覚えがあると思えば劇中で主人公が着てたものと同じデザインだ
それに私は人を殺してしまった、殺したと思ったら知らない男に抱かれ、それも反社の男だった
極道のVシネマか…いや、これが現実か…
「じゃ、行くか」
私の血痕が付いたバッグをPRADAの紙袋に入れた男は荷物を持つと私の腰を引いて部屋の扉を開けた
側から見たらまるで普通の恋人達のように
この時間にホテルの廊下には誰もいないけど…
ところでずっと私には気になる事があった
「あの…」
私の不安を見抜いた形の良い唇が開く
「自首しようだとか変な真似するなよ?
ちゃんは俺の恋人で部屋で一夜を過ごしただけ。それ以外何もなかった、な?」
何も聞くなと、言葉だけだと優しく感じるが私を見る目は冷たく腰に回された腕に力が篭っていた
私は静かに頷いた
地下の駐車場に入りフルスモークの車の前に立ち止まると後部座席を開けた蘭さんに促され、私は乗り込んだ
「えっ…」
運転席に誰か乗ってる…
「おーい、兄ちゃん戻ってきたぞー竜胆起きろー」
助手席に乗り込んだ蘭さんが運転席に乗る男を揺すった
って、兄ちゃん…?
「…ん…遅ぇよ、んで回収した?」
「後ろ見ろよー!実物だぜー!兄ちゃんとお似合いだろ?」