第1章 Mistake
出しっぱなしにしたシャワーの音で満たされている空間に気配を感じた…
ずっとそこに居るのかのような…
私はメイクを流し終えて目を開けると…やっぱり
「えっ…な、なんで!?」
すぐさましゃがみ込み腕を交差させて背後を向いた
「あーあ、折角イイ眺めだったのに」
呑気な男の声が聞こえてくる
まさかずっとそこで私の裸を横目にバスタブに浸かってたってこと…?
「にしてもTVで観るよりずっとイイ女だワ」
動けない…お願いだから早く出て行って!!
さっき会ったばかりの見ず知らずの男と入浴ってなんなの…
「こっち来いよ」
「それは…無理…」
「タダでなんでもしてもらえると思ってんのかぁ?」
苛立ちを含んだ男の声がバスルームに広がる…
私は人殺しをして、この男はその処理(?)をしてPRADAをプレゼントしてくれた
確かにタダでは済まない
「…思わない、です」
脚をバスタブに浸けると男の視線が刺さる
ずっと目を逸らしてるのにわかってしまう
これがただの自意識過剰ならイイけど…
男の長い脚の間に背後を向いてしゃがみ込みんだ
腰に腕を回されると髪を片側に掬われ肩に顎を乗せてくる
ああ、心臓がうるさい
恥ずかしい…
「ぁっ…」
男は私の耳をなぞるように舌を這わした
体温が上がった男から感じるムスクの香り
私の髪から香るMissDiorが混ざりあう
「緊張してる…?」
耳元で囁くように告げられた言葉に思考が麻痺していく
「…っ!」
思わずビクっと身体を揺らすとバスタブからお湯が少しだけ跳ね上がる
「敏感♡」
「ぁっ…まっ…て」
腰に回されていた腕が緩められると骨張った指先が肌を滑って上に上がっていく
下から胸を持ち上げるように指が食い込み、はっとした私は麻痺した思考をフル回転させた
「ぁっ…あなた…誰…?」
そう、私はこの男を知らない。
さっき出会ったばかりの男とこんな事になってるなんておかしい
私は男女関係のスキャンダルに細心の注意を払って芸能界を生きてきた
…為、経験人数もそれ程多く無ければ最後にしたのだってもうずっと前だ
既婚俳優とワンナイトを週刊誌にすっぱ抜かれ周囲に多大な迷惑をかけてしまった為それからというものの誰にも身体を許さず生きてきた
のに、人道を踏み外してしまった最悪なタイミングでしかも知らない男と…