第26章 勧誘は彼女の笑顔と共に
その時から、ユキは2度とエースをベットにあげようとはしなかったな、と思い出しながらも、ま、いいお灸になったろ、と思いながら歩いていると、やはりユウの墓場の隣で座り込むユキを見つける。
あの日からユキの泣き顔を見たことないエースは、いつもここにいる時のユキの表情が何も映さない空虚なものであることを、知っている。
ぼんやりとどこを見ているかわからない瞳で、海を眺めるその姿に声をかけると、すぐにさっきまでの表情を消し笑顔になる。それが、痛々しかったが、エースは何も言わなかった。
今日も、その小さな背に声をかけると、笑顔で振り返るユキに、エースはゆっくりと近づいた。
「・・・・なぁユキ」
「何?」
「ありがとな」
「?それは私のセリフじゃない?」
「・・・いや、ここに流れ着いて、ユキを知れて、俺はよかったと思ってる」
静かにそう言うエースに、ユキは変なエース、と笑って返す。だが、あまりにもエースの黒い双眸が真剣さを帯びていたので、その情熱的な瞳に縫い止められ、ユキは笑うのをやめた。
どうしたの?と聞く前に、エースはユキ、と名を呼ぶ。どきり、と心臓が鳴るユキは、これからエースが何を言おうとしているのか察したのか、少しあの空虚な瞳が見え隠れする。それに気づくエースは、それでも、この1週間考え抜いた答えを出す。
「俺と一緒に、生きないか」