第16章 彼女の復讐
「____死ぬ気か」
エースの言葉に驚きも、否定すらせず見返してくるユキ。
そんな目をされたら、エースは止める術を知らない。先の戦いでも、こいつの覚悟は本物だった。弟のために命も、自分の未来も投げ出す覚悟、そしてその弟が死んだと聞かされた時、もはやこいつに世界貴族の脅しは効かなかった。
そんなもの、どうでもいい、弟の命がこいつにとってよりでかかった。だから、あいつに復讐をした。世界最高権力を持つものが相手であっても、ここが無人島でなくても、あいつの選択は変わらなかっただろう。
それに、あのクソ野郎に最後の引き金を引いた時の、ユキの表情。
『無』一択のその表情は、それまで表していた怒りや憎悪を一切かなぐり捨て、ただただ断末魔のように響く悲鳴をあげるそれを、なんの興味もなく撃ち殺した。
その瞳は、青く美しい色が、孤独の永遠を表しているようで。エースは、これが『純粋な殺意』かと初めて人の殺意に身震いした。
今、エースを見つめるその瞳は、その時の瞳と同じ色をしている。
きっと、許せないものが、まだあるのだろう。さっきのユキと天竜人の話を聞いていたから、わかる。
「・・・弟が、それを望んでいない、そんな言葉ももう、お前ェには届かねぇか?」
「・・・・」
「__そうか」
『復讐心に取り憑かれちまえば、その人間はそこから動くことはできねぇもんだ』
いつの日か、エースへと放った親父の言葉がどこからか聞こえてくる。
そうだ、かつて、エースも復讐心に取り憑かれ、この海で暴れていた。だが、前へ進むことはできず、ずっとそこで立ち止まっていたエースを、白ひげが叩きのめしたのだ。そしてエースに、新たなる目標を与えてくれた。
そこでやっとエースは気づいたのだ、父親への対抗心、復讐心から海へ出て世界中に自分の名を轟かせてやるつもりだった。だが、それだけだ。その先がなかった。
だからエースは負けた。今ではそう思う。