第16章 彼女の復讐
燃え上がる炎から、もはや断末魔さえも聞こえてこない。誰1人、生きてはいないだろう。
そんな炎をいつまでも見続ける女。
出会った頃も、同じように燃え上がる街をこの女と見ていたな、と思いながら、ふと気づく。
そーいや、まだ名前も聞けてねぇんだったな。
「・・・なぁ、」
今度こそ尋ねようとした瞬間、前を向いていた女が振り返った。
「ユキ」
「え」
「名前、言いそびれました。ユキです。」
「ユキ・・・・そっか、ユキか!いい名前だな。俺はエース。気軽に呼んでくれ」
「・・・・エース」
初めてその口から、名を呼ばれた。そのことにやっと少し近づけた、と思うエースは、次の瞬間その考えが間違っていることに気づく。
「ありがとう」
にっこりと、無理やりに口角を上げた笑顔で、ユキは笑ってそう言った。
その痛々しい笑顔を見たエースは、思わずその小さな体を引き寄せる。
「っ馬鹿野郎、悲しい時、辛い時、そんな顔して笑うんじゃねぇ」
「・・・嬉しいの。もう、ユウは、苦しまなくていいと思ったら、嬉しくて」
そう嗚咽混じりに言うユキを、さらに強く抱きしめた。
「エース、私にはもう、生きる意味も、守るべきものも、希望も、何もない。何度も救ってくれてありがとう。もう、私のことはいいから、仲間と早く合流して、この島を出て。こんなことに巻き込んでしまって、本当にごめんなさい」
「・・・ユキ、お前まさか」
そこまで言ってエースは胸に抱いたユキの肩を掴み、向き直る。そこには、先ほどと同じように、覚悟を決めた瞳でエースを見つめるユキがいた。