第15章 お尋ね者
「!!!!!!」
中から何やら必死な男の声が聞こえてきた。それを聞いた瞬間、女はダイヤルを落とし、口元を覆った。
「・・・・な、に、これ」
驚愕した様子の女に、また笑い声をあげる天竜人は、それはそれは楽しそうに言う。
「わかるはずだえ?おばえの、愛しい愛しい、『弟』の声だえ」
「どういう、こと!?あの子は、生きているの!?」
「死んだなんて、一言も言ってないえ」
「っ騙したの!?」
「騙す?おばえが勝手に勘違いしたんだえ。これで、おばえの本心が聞けたえ。おい、お父様に、あの男を殺すように伝えるえ」
「!!!やめなさいっ!!!!」
側に控える役人が電電虫を手にとった瞬間、女は叫んだ。
「やめなさい?・・・・誰に、言ってるえ」
「っ!・・・・やめて、ください。お願いします。あなたの元に、戻りますから。なんでもします。だから・・・・弟の命だけは、取らないで、ください」
目から光が無くなり、全身の力の抜けた女は、とうとう、本当に、頭を垂れた。そんな様子を、ニヤニヤとした顔で見下ろす天竜人。
「・・・・わちしを裏切り、吐いた言葉の重さを、教えてやるえ。『脱げ』」
「・・・はぃ」
するり、と一枚羽織っただけのワンピースを脱ぎ捨てる女。天竜人は、見せろ、とだけ命じた。
それに反応した女は、ゆっくりと後ろにいるエースの方へと振り向き、背中を晒した。
「・・・その『証』は、なんだえ?」
「・・・・・私が、一生、ムスラルド侯のものであるという、『証』です」
そう、天竜人が奴隷を買った際につける、落胤。それが、女の背には焼き付けられていた。
これが女から、人としての矜持も、人権も未来も、全てを奪ったものだ。
「フェッフェッフェッフェッ!そうだ、おばえは一生、『わちしの妾』だえ」
妾、という言葉にエースは反応する。
つまり、こいつはただの奴隷ではなく、天竜人が気ままに気に入った女を妾にし、最後はひどい状態で捨てられる、そういう立場だったのだ。
しかも、弟を奴隷に人質に取られている。逃げることもできず、ただただ従うしかなかった。
看病中、その奴隷である『証』、落胤を見たときから、なんとなくだがその過去を知ったエース。だが、予想していた以上にひどい状況に、己の胸の奥からフツフツと怒りが湧いてきた。