第2章 知らない女
「・・・エース!エース!エース!会えた。ほんとに会えた。エースに、もう一度、会えた。」
よかった、そう呟きながら、小さな身体を震わせ、まるで生き別れた親か、恋人にでも会ったかのように強い抱擁を受ける。
それをエースは戸惑いながらも、力で突き放そうともせずじっと見下ろした。
勿論、エースにとってこの女が誰かも、今何が起きているのかも、敵が騙そうとしているのかも、全く分からない。
敵襲かと思い援軍に行こうとしたら突然女に抱きつかれるなんて、この女がその手のプロなのかと最初は考えたが・・・今なお必死にエースの身体を強く抱きしめ、その震えがエースにまで響いてくるように泣き崩れながら再会を喜ぶ姿は、どうしても演技に見えない。
「・・・おい。俺は確かにエースだが・・・人違いじゃないのか?気の毒だとは思うが、俺はあんたと会ったことも喋ったこともねぇ」
「・・・・・・エース。分かってる。大丈夫。ごめんなさい。今だけ、あと少しだけ、あなたの存在を確認させて」
お願いだから、と涙ながらに訴えてくる女に、ぐっと出そうになった言葉を引っ込める。その気迫に押されたのだ。
もし本当に刺客なら、既に殺されてるだろう。敵ではない、という直感にエースは素直に従った。
シン・・・とした自室にて、ただただ流れてくる涙を止められずにいる女。その女は、存在を確認させてくれと言ったからか、エースの心臓の位置に耳を寄せ、まるでその心臓の音を聞いているようであった。