第52章 1番隊
「あいつは、あの瞳の色を気に入っていてよ、いつも俺に聞いてくんだ『お兄ちゃん、私の目の色好き?』ってよ。俺はいつも、好きだぞって伝えた。俺もあいつも、それを誇りのように思ってた」
そこで一旦話を切ったドリーは、目を丸くするユキに視線を移した。
「・・・だからよ、お前からしたら迷惑な話かもしれねぇが・・・俺は、妹が近くにいるみてぇで、嬉しいんだ。・・・・だから、必要以上にかまっちまうし、その瞳の色が嫌いだって言うユキの色を、俺は好きだぞって伝えてぇんだ」
この前あんなこと言っちまって、悪かったな。そう言って頭を下げるドリーに、心の中につっかえていた何かが取れる気がした。
「・・・私がこの色を好きになれない理由は、この色のせいで大切なものを無くしたからです。だからきっとこの先私がこの瞳を好きだと言える日は来ないでしょう・・・・」
そう言ったユキに、そうだよな、と苦い笑みを浮かべたドリーに、ユキはでも、と続けた。
「妹さんのことを想って、この色が好きだと言うのなら、構いません。・・・私も、少しあなたを誤解していました。すみません」
そう言って謝罪を述べるユキに、ドリーは目を大きく開いたが次の瞬間、ユキの小さな体を正面から抱きしめた。
「!?ちょ、ドリーさん?!」
「ドリーでいいよ、ユキ!俺のこと、お兄ちゃんだと思っていいからな!」
嬉しそうにユキをその腕に抱くドリーに、ユキは戸惑いながらもそれは嫌です、と返した。
その言葉にハハッと笑声をあげたドリーは、小さな体を解放し、またユキと背を並べてペンを手に持った。
蟠りがなくなり、穏やかに文字を綴りながら軽く言葉を交わす2人は、最後の仕上げとばかりに1番下に自身らの名前を連ねた。
日の暮れるまでには終わったその仕事に、ユキは久しぶりにドリーへと笑顔を見せた。それは今まで浮かべていた他人行儀のものではない。
「ありがとう、随分覚えられたよ、ドリー」
その砕けた口調に、ドリーは少し目を見開きながらもいいってことよ、とユキの頭を撫でた。まだ抵抗のあるユキは今までのようにすぐには振り払うことはなかったが、やんわりとその腕をどけ、今日はもういいよ、ありがとう、とだけ残してマルコの部屋へ向かった。