第52章 1番隊
サラ、と肩に靡くその青い髪を一つ掬い、唇を寄せた。それに冷ややかな視線を向けるユキに、少し拗ねたようにその口を尖らせるドリー。
「どーせあの人がやったら顔真っ赤にするくせによー」
「・・・・覗き見が趣味だったの?随分悪趣味なんですね」
「へぇ、やられてんだ」
「ッ」
ドリーの言葉では赤くならなかったその顔が真っ赤に染まるのを見て、少しのつまらなさと少しの満足感が胸を締める。
「ほら、さっさと終わらさないと、マルコ隊長は怖いぞ」
そう言って一つ一つ丁寧に文字を教えていくドリーに、ユキは少し意外だな、と感じていた。見た目も接し方も軽いから、きっとこんな書類仕事など軽く適当にやるものだと思っていた。しかし、その手は綺麗な文字を描き、ユキに分かりやすく説明していく。
目をパチクリとしながらドリーを見るユキに気づき、ペンを走らせるのを止めたドリー。
「・・・何?」
「・・・教えるの、うまいんですね。意外です」
その言葉に目を丸くしたドリーは、ユキの予想に反してその瞳に少しの憂いを帯びた。てっきり調子に乗り笑うだろうと思っていたユキは、思いもよらないその表情に、あ、と少し後悔をした。
これは、きっと何かに触れてしまったのだろう。その表情は何かを思い出すような仕草にも思え、ユキの最も嫌うことをしてしまったことに対して、罪悪感が胸を締める。
「・・・ごめんなさい」
すぐに謝罪を口にすれば、ドリーの驚いたような表情が見えた。
「別に謝ることはねぇさ。ただ少し、妹のことを思い出しただけだよ」
気にしていないようにそう話すドリーは、やはり普段から人のパーソナルスペースに勝手に踏み込んでくるあたり、自分がされても何も思わないらしい。
そのことに少しの安堵と苛立ちを隠したユキは、妹?と聞き返す。
「ああ、あいつに文字を教えたのも、俺なんだ。・・・正直に言うとよ、妹もお前と同じような珍しい瞳の色を持ってたんだ」
「え」
優しげな声を出すドリーに、ユキは戸惑いの声をあげた。そんなユキに苦笑しながらドリーは話を続けた。