第52章 1番隊
「とりあえず、これを書き写してくれ。資料は全部ここにある。」
そう言って手渡した鍵に、ドリーは声を上げた。
「それ、まさか書庫の鍵っすか!?マルコ隊長しか持ってないっていう・・!」
「ああ、ユキはまだ不慣れだからねぃ。あそこで少し勉強しながら書いてくれりゃあいいよぃ」
そう言って紙から手を離せば、ユキが困ったような顔で見上げてきた。その視線に、首を傾げると、おずおずとすみません、と断りを入れた。
「・・・私、文字、そんなに書けないんです」
「!」
そうだった、幼い頃から弟と2人暮らし、そしてつい最近まで天竜人の元で奴隷であったユキが、文字の読み書きを堪能にできる訳が無い。きっと生きるだけで精一杯だったのだろう。失念していたことに若干の後悔を残しながらも、しかしと唸る。
「悪いが、文字を教えてやれるほど今日は時間がねぇんだぃ。他の日ならいいが・・・・とりあえず、今日のところはドリーに教えてもらいながらやってくれよぃ」
その言葉に、嫌そうな顔をされるだろうと予想しながらも、ユキは引き攣った笑みで分かりました、と頭を垂れた。そうして去って行くユキの背を追いかけるドリーの肩を掴み、低く唸る。
「いいか、絶対ェ変な気起こすんじゃねェぞ・・・・あいつに焼き殺されたいなら別だが」
「・・・や、大丈夫ですって!エース隊長に焼かれるのはごめんですからね!」
そう言い逃げるように去って行ったドリーに、義理は果たした、とばかりに窓から見える海へチラリと視線を投げた。