第49章 雨音とともに
「・・・お前よ」
「んー?」
こちらを見ず雨粒に目を奪われているユキに不機嫌そうな顔を向けながら、その耳元に唇を寄せた。
「兄貴はこんなことしねェよ」
直接耳元で囁けば、ビクッとその体が揺れた。それに気を良くしたエースは、身を縮こませるユキをきつく抱きしめ、さらに赤い耳へと息を吹きかけるように話しかける。
「・・・・他のやつにさせんなよ」
「ッエース・・・!・・耳元で喋らないで・・・!」
ゾワリと駆け巡るそのくすぐったさに身を捩ったユキは、先ほどまで伸ばしていた雨に濡れるその手を耳に当て、エースへ振り返りながら抗議を申し立てる。その真っ赤に染まった顔にエースは少し唇を尖らせる。
「・・お前が知らん顔するからだろ」
「ッそれは・・・!・・・・・ッ」
図星とばかりにぎくりと体を揺らしたユキに、心の中でため息を吐く。
「ま、今はそれでいいよ。なんだっけ?優しいオニーチャン?オンジン?」
揶揄うように先程の言葉が並べられ、カァッと羞恥から頬を染め上げる。
「・・・・ッぜんっぜん優しくない・・!!」
「ハハッそりゃ悪かったな」
楽しそうに笑うエースを横目で睨みつけ、ユキはフンっとそっぽを向く。両手を耳を守るようにあてるユキの手の甲に軽くキスを落とし、エースはまたその肩口に顔を埋めた。
「ッ・・・・・もうッ・・・・ばか・・・ッ!」
そんなエースに悪態を吐くユキは、自身の体が先程とは違いポカポカと火照っていることに気づき、エースから無理やりに目の前に降り注ぐ雨へと意識を逸らせる。それを面白そうに見るエースは、今度は何も言うことなくユキの好きにさせてやる。