第49章 雨音とともに
しばらく無言が続き、しんしんと降り続ける雨音に徐々にユキの荒れた心が落ち着いていく。冷え切って固まっていた体がエースの熱に包まれ、妙な感じだな、とクスリと笑みを溢した。
そんなユキに視線を寄越すエースは、雨を見つめながら微笑むユキの横顔を覗き見る。
「♪〜」
雨音に紛れて聞こえてくるその小さな音に、エースはゆっくりと瞼を落とした。耳から拾われる音に意識を集中させる。
ポツポツと雫が傘に跳ねる音、甲板に跳ねる音、そして海の表面に弾かれる音、後ろからは小さく騒がしい仲間たちの喧騒の音。そうしてその中に混じる、銀の鈴のような澄み通った声が鳴る。
自分の抱きしめている女、ユキから出されたその甘美のように甘く痺れた歌声に聞き惚れる。他の音をかき消す訳でもなく、調和するような歌声に、エースは自然と体から力の抜けるような気がした。海に落ちたような脱力感ではなく、それは心地の良いもので。
抱きしめる腕に少し力を込めれば、それに応えるようにエースの耳に透き通った声が響く。
あぁ、雨の日もいいもんだな・・
今まで鬱陶しいものとしか思っていなかった雨に対してそう感じることができるのは、きっとユキが雨を好きだからで。
まるでガラス細工のように美しい音色を響かせるユキに、雨が少しだけ好きになった。