第49章 雨音とともに
ポンっとその場に現れたユキに、エースは苦笑した。
「お前、瞬間移動できる能力ってことにしねーか?」
「それはいいけど、長距離は無理だし、何より私の知る人がそこにいないといけないんだから、すぐバレちゃうよ」
そう言ったユキに、それもそうか、と頷くエースは、見張り台から伸びるそのマストに背を預けながら座り込む。慌てたように傘を差し出してくるユキの手から傘をそっと奪い取り、開いたその手を自身の方へと引っ張る。
いきなり引かれたその手にユキの体はエースへと覆い被さるように倒れ込んだ。エースは、自身の胸に倒れ込んだそん小さな体が冷え切っていることに、少しむっとしたような声を出した。
「・・・・エース?」
「・・・・・体、冷てェぞ」
「・・・・・」
あはは、と苦笑しているだろうユキを半回転させ、エースはその場にあった毛布をくるりとユキの体に巻きつけた。そして毛布にくるまったユキの体を後ろから抱きしめてやる。
「朝からずっと雨にあたってたんだろ」
「・・・・うん」
「ハァ・・・・・バカだろ、お前」
「・・・・・つい楽しくなっちゃって」
アハハ、と力の抜けたような顔で笑うユキは、後ろのぬくもりに背を凭れかける。
「・・・・エースって、いつも暖かい・・・火だから・・?」
「・・・・おぅ」
下から覗き込むように顔をあげるユキを見下ろし、小さく返事をする。そしてユキの頭のてっぺんに顎を置き、強制的にその顔を降ろさせながら、ぎゅう、とさらにきつく抱きしめる。するとユキの湿った服ががみるみる乾いていき、体温が少しずつ上がるのを布越しに感じた。