第49章 雨音とともに
マルコと話し終えたエースは、食器を片付け甲板へと足を進めた。近づくにつれてその雨音は大きくなり、いつもは甲板で騒ぐ連中も、今日は大広間や部屋に引っ込んでいる奴らの喧騒が小さくなっていく。
代わりにバシャバシャとした小さな足音が聞こえてきて、エースはそっとため息を吐いた。
やっぱりここか、と思い甲板を覗く。雨の日にわざわざ甲板へと上がるのは運の悪い見張り役くらいだろう。しかし今日はそこにもう1人先客がいた。
バシャバシャと甲板のあちこちに溜まった雨水でできた丸い鏡を、その足で壊していく。そうして手を上に伸ばしながら降りかかるその雫を受け止める女、ユキは、心底楽しそうにはしゃいでいた。甲板でクルクルと回りながら雨を思いっきり堪能しているユキは、さながら劇団のような、舞子のような、踊り子にさえ見えた。
いつもはニコニコと愛想の良い笑顔を浮かべるユキが、この時ばかりはエースといる時のような、素の表情を浮かべているのを見て、エースは屋根のある廊下の壁に少し体を預けながら見守った。
こんなにキラキラとした目をするユキは珍しい。本当に好きなんだな、とその表情を見てクツリと笑いを咬み殺す。
見上げれば、どんよりと曇った雨空から、大量の雫が落ちてくる。子供の頃から好きではなかったその雨。太陽は見えないし、気分は落ちるし、海も荒れる。狩るべき動物達すら出てこないという始末に、エースはやはりこの雨がずっと嫌いであった。
良いことを運んではこないし、外で思い切り走り回ることもできない、己の能力である炎も、雨には鎮火されるのが常だ。まぁ最も、エースの炎はこんな雨に負けるほど弱くはないが、と付け足したところで、エースは目の前で足を滑らせたユキに目を見開く。