第49章 雨音とともに
いつもは最中に突っ伏されるはずのその頭が、今日は何やら急いでかき込むエースの姿に、マルコは眠たい目を開けて尋ねる。
「なんか急いでんのかぃ?」
「・・・ふがながああぶ」
「・・・・いいから、食ってから喋れよぃ」
その大きくなった二つの頬袋を見て呆れた視線を送る。そしてマルコはゴキュリ、とその喉を大量の食べ物が通るのを見て、少し顔を顰めた。よくもまぁあれほどまでの量が一気に体内に入るもんだ、と。
一方、エースは含んだものを一気に飲み込み、最後に水を流し込むように喉を潤した。そして目の前の不機嫌そうな顔をしたマルコに、ポツ、と言葉を返した。
「・・・ユキがよ、水遊びしてんじゃねぇかと思って」
「水遊び・・?」
その言葉に、マルコはどうにもあのユキと水遊びという言葉が結びつかないで思考が停止する。そんなマルコを見て、エースは苦笑しながら答えた。
「ああ・・あいつ、島にいる間もよく湖で遊んでたんだ」
「へぇ・・・・・・・・・・能力者が?」
「フハッ・・・そうそう、能力者が」
信じられねェ、という顔をしたマルコに、エースは確かに自分も同じことを思った。きっと同じような呆れた顔で水へと浸かるユキを見ていただろう。
「変なやつだよぃ・・・俺は雨だけでも鬱陶しいっつーのに」
「俺もそう思う・・・けど、なんかあの力の抜ける感覚が好きなんだと」
「はあ?」
悪魔の実を食べたものは海に嫌われる、それは一生泳げない、金槌になるということだ。そんな自分達が最も嫌う、あの海に落ちた時の脱力感。あれが好きだなんて、馬鹿げている。変なやつにも程がある。一歩間違えれば死ぬかもしれないその足枷に、自分からかかりに行くような人間、いるのか。
「うん、だよな、あいつが変なんだよな」
マルコの反応に安心したように頷くエース。
「・・・・一種の変態だろうよい」
マルコのその言葉に目を見開いたエースは、次の瞬間ハハッと弾かれたように笑い出した。
「ちげぇねェ・・!」