第49章 雨音とともに
「おはようエース、今日もすげぇな、髪」
半笑いで指を差してくるサッチにうるせェ、といつもより少し元気のない声が出る。シャワーを浴びて一度ぺったんこにしたその髪は、起きた時ほどではないがやはりピン、とあちらこちらに跳ねる。サッチはエースの覇気のない声に、苦笑を浮かべた。
「能力者ってのは、厄介なもんだねぇ」
「・・おー・・・・けど、俺は昔から嫌いだった」
「ま、俺も好きではないな」
海賊だし、と笑って手を宙に放り投げるサッチは、エースの持つおぼんに今日の朝食を並べた。
ふと、エースはそこでいつもとは違う光景に気づく。いつもはユキがここでご飯の受け渡しをしている。皆の、『女から毎朝飯をもらいたい』というなんとも寂しい現実を背負った男どもの要望を聞き入れ、ユキが毎朝のご飯受け渡し人になっている。たまのユキの休みの日は朝から何となく皆の気が沈んでる。そして今日も。
しかし、今日ユキは休みではなかったような、と首を傾げるエースに気づくサッチは、ああ、と苦い笑みを零した。
「いや、俺もびっくりしたんだけどよ、ユキちゃん、朝から妙にうずうずしてるってか、楽しくて仕方ないって感じでよ、今日夜番にしてほしいって頼んできたんだよ」
「はあ?」
「妙に真剣だし目も輝いちゃってるしで、初めてのユキちゃんからのお願いに俺も許しちゃったんだけど・・・ユキちゃん、何してんのかな。エースお前、なんか知ってっか?」
腕を組みながら首を傾げるサッチに尋ねられ、エースは少しだけユキの気持ちを逡巡した。朝あいつはいつも早起きだ。きっとこの船で1番じゃないかと言うほどに早起きなユキは、いの一番にこの天気に気づいただろう。そうして目を輝かせるユキを想像し、エースは一つ笑みを零した。
「・・・・・あぁ、あいつ、好きなんだと・・・・・雨が」
そう言って窓の外へと目を向けるエースは、ここにはいないユキを想像し笑っている。