第47章 怒気
「エース!」
「・・・・お、おう」
そん代わり映えに、呼ばれた本人はビクッと肩を揺らした。犬のように寄ってくるユキに、エースは複雑な表情のままに迎え入れる。
「どうかした?」
「え?いや、お前どうしたって・・・お前こそ、どうしたんだ」
普段温厚で大人しく、あくせく楽しそうに笑顔で働いているユキしか知らない者にとって、先程のユキは恐怖でしかなく、周りの空気が固まっている。
それを尻目に口角を引き攣らせるエースに、こてり、と首を傾げるユキ。
「どうしたって・・・あぁ、ちょっと手が滑りそうになっただけ・・・滑ってないから、安心して?」
にこ、と笑ってドリーを見るその視線の冷たさに、その場にいた者はカチン、と固まった。エースも例外ではなく、皆がその場で理解する。
ああ、怒らせちゃいけないって、こういうやつのこと言うんだな・・・・
「・・・・まぁ、気をつけろ・・・な?」
「うん!大丈夫!ところでエースはなんでここに?まだ夕食の時間でもないけど・・・」
「あぁ、マルコがお前に話があるってよ。ちょっと今時間平気か?」
後ろを指差すエースの先に、なんとも言えない表情をした1番隊隊長の姿。
「・・・サッチさん、少し抜けて平気ですか?」
じっとサッチの方へ視線を向けると、慌てたようにその手を前へ出した。
「もちろん・・!むしろそうして!今は!」
「大丈夫みたいです!なんですか?マルコさん?」
まるで何事もなかったかのように振る舞うユキに、マルコは視線をそらした。
「・・・・・よぃ」
「?」
「あー、ここじゃなんだし、な」
そう言って凍った空気の中から、元凶の背中を押してマルコの部屋へと向かわせるエース。一度だけ凍った雰囲気を振り返り、その片手を顔の前に持っていき謝罪の意を示す。
3人の足音が遠ざかったことに、その場にいた者たちはホッと足元に崩れ落ちた。