第47章 怒気
いつか白ひげへと放ったその言葉に、ユキはピクリ、と足を止める。そしてゆっくりと顔だけ振り返りひんやりとした笑みを浮かべた。
「その方法を、探しているだけですが・・?」
「はっ、海賊が、幸せにねぇ」
そんなドリーの言葉に、今度こそユキは体ごと振り返り、目の前で不遜な態度を取る男に向き合う。両者の間に、ピリッとした緊張感が走る。それに気づいた周りのコック達が、2人を止めようと声をかける。
「お、おい、ドリー、ユキちゃん、その辺で__」
2人から向けられた極寒の視線に、コックはやめておけ、という言葉を飲み込んだ。
にこりと冷笑を浮かべるユキに 、それを嘲笑うかのような笑みを浮かべるドリー。側から見ればただ戯れているだけのそれも、普段ユキの温厚な雰囲気しか知らないコック達は、ドリーの言葉がユキの琴線に触れたことは目に見えてわかる。
「ドリーさん。何が、言いたいんですか」
そのなんの感情も乗せられていない声音に、先ほどまでまだ曖昧であったその感情の機微が現れた。それにびくりと反応したのは周りのコック達で。その言葉を真正面から受け止めた男、ドリーは軽くその両手をあげて肩をすくめた。
「いや?海賊ってのは、自由を愛する奴らがなるもんだ。お前みてーな、自由を自分から拒否するよーなやつに、この船は似合わねぇよ」
自由になれない奴が、海賊になんかなれやしない、そう豪語したドリーの明らかな挑発に、ユキは燃え上がってくる何かを抑えることができずに浮かべていた笑みを消した。
「・・・自由を求める人たちが海賊なら、私は幸せを求めるただの女です。自由を求めることが乗船条件なら、引きずりおろせばいい」
「はっ、エース隊長に連れて来られたお前を引きずり下ろせるやつなんか、隊長たちかオヤジくらいさ。そーやって感情むき出しにできねぇ、正体も隠す、せっかく持ってるもんも隠しちまうとこが、幸せになんかなれる訳ねぇって言ってんだ」
ユキの全てを否定したその言葉に、カッと頭に血がのぼるユキは煮えたぎる怒りをそのまま言葉に乗せてドリーを睨みつける。
「あなたに私の幸せを決められる筋合いはない」