第34章 凶器
「なんで砂糖・・・!?」
「・・・そ、それは・・」
ポッと頬を赤らめるその姿に、もしかして俺の知らない調理法があるってことなのか?と希望を見出そうとしたサッチの思惑は、次のユキの言葉によって崩れ去った。
「私の1番美味しいと思うカレーを、皆さんに食べて欲しくって」
ズガーーン、と頭の上に大きな石を落とされたかのような衝撃に一瞬気をやりそうになったサッチは、フルフルと頭を振ってなんとかその衝撃に耐えた。
「砂糖って・・!!めっちゃ甘いカレーになったけど!?」
「え?はい、とっても美味しいですよ」
味見してみます?そう言って差し出してきたその小皿には、先ほどまではあった赤いスパイスがなんだか濁って白っぽくなっているのを見て、ゴクリと生唾を飲んだ。
そろそろとその小皿を受け取り、口に運ぶサッチを見るユキは、心からの純粋な笑顔を向けている気がする。しかしそれはまるで悪魔のようだった、と後に語られるのだが、今はただただそのカレーのようなものを口に入れるサッチは、次の瞬間、吹き出しそうになるのを我慢した。
どんどん蒼白になっていくその顔が、プルプルと震え出すのを不思議そうに見るユキには、全く持って一欠片も、悪気も、殺意も、何もない。
ただただ期待するようにその瞳がキラキラと光り輝くのを見て、サッチは根性でそのこの世のものとは思えないほどの激甘カレーを流し込んだ。
「・・・・・・・うん・・・・・ウマイネ・・・・」
白目を剥きそうになるのを耐え、ユキにそれだけ伝えれば、嬉しそうにその顔は輝かれる。後ろで、男だ!あんたは男の中の男だ!!涙を流しながらサッチの勇姿を見届けたコック達が叫ぶのを聞きながら、サッチはユキに笑顔を向ける。
「ユキちゃん・・・・甘党なんだね」
「実は・・少しだけ」
そう言って照れたように微笑むユキを見て、笑顔以外の表情を引き出せたことに少しの喜びと、残りは心の中で『少しではないかな』というツッコミに当てる。