第34章 凶器
スパイスの香りがキッチンを包み込み、さて出来上がりだっとコック達が片付けの準備に取り掛かろうとした瞬間。
「じゃあ最後にこれを」
そう言ってばさり、とその袋を鍋へと逆さまにしたユキは、クルクルとお玉を回す。それを唖然と見たサッチ達は、隣に置かれた空の袋に書いてある二文字を見て、絶句した。
「「「「「・・・え?」」」」」
そんな様子にも気が付かず、食堂へと足を運んできたクルー達に目をやるユキ。
「あ、もう匂いに誘われて来ちゃってる」
少し慌てたように混ぜる鍋から粉が全て消え去ったのを見ると、一口分を小皿へと取り、その小さな口へと吸い込まれていく。舌の上を走るピリッとした刺激に、満足そうにうん、と頷くユキを見て、我に返ったサッチが叫ぶ。
「いや、いやいやいやいやいや、待ってユキちゃん!?」
「はい?」
小首を傾げたユキは不思議そうに慌てるサッチを見やる。それに、恐る恐る、というように鍋を覗き込みながらユキへ尋ねるサッチ。
「い、今、何入れた、の・・?」
「ええ?書いてあるじゃないですか、ほら」
砂糖って
空になったその袋をサッチの目の前に持っていきながら、ね?と笑みを浮かべるユキは、ふざけているようには、見えない。しかし、サッチの知識の中に、カレーの最後に砂糖を一袋全て入れるような調理法は存在しない。