第34章 凶器
「今日は何を作るんですか・・?」
そう尋ねれば、ユキの前に立つリーゼントのお兄さん、サッチはニッと笑った。
なんだと思う?と問われ、ユキは揃えられた材料を見て、少し悩むふりをしてから笑って答えた。
カレー!
そう言ったユキに、正解!と笑みを浮かべたサッチは、キッチンにいる者全てに聞こえるよう、大きく声を響き渡らせ号令をかけた。
その号令により、キッチンはすぐにあくせく動くシェフにより奏でられるそのメロディーのような調理音に包まれる。ユキは、その音が好きだった。
ジャガイモを剥いた皮がクルクルと宙を舞い、茶こけたゴツゴツとした皮の下から、つややかな幹の中身が現れる。その量は1600人もの腹を満たすには充分な量で。
その包丁がまな板の上で皮の剥かれたジャガイモ、にんじん、玉ねぎと小気味よく鳴る。隣では大きな肉を麺棒で叩く男達の姿。ジュアッと熱したフライパンに食材が放られ、コックによって新鮮な素材が手際よく火を通され、彩られていく。挽きたてのスパイスが油の中で互いにしっくりと馴染んで香りと刺激のハーモニーを奏で始めたらもう食べごろ。