第33章 コック
エースにそれとなくそのことを話せば、苦笑を浮かべてユキを見た。
「琴線ってほどのもんじゃねぇよ。けど、今のあいつを支えてんのは、ああやって笑顔で生きていくことなんだ」
フゥン、と相槌を打つサッチは、けどなぁと言葉を濁した。
「お前はそりゃーあんな顔されてんだからいいけどよ、ユキちゃんの話聞いてあれが愛想笑いだって気づいてる俺とマルコの居た堪れなさ」
そう、エースにだけは花がパァッと咲いたような、そんな笑顔を見せるのだ。その度に、こうやって笑うんだな、とサッチは羨ましいような気分になっていたのだ。いつかあんな笑顔を自分たちにも見せてくれるのか。その可能性は限りなく低いように思わせるユキの壁の厚さに苦い笑みを浮かべた。
それを見たエースは、申し訳なさげに目を細めた。
「あいつがいつか本当の笑顔見せるまで、長ェかもしんねェけどよ、気長に見守っててくれよ」
「・・・ま、俺はユキちゃんのこと好きだからね、何せ即戦力だし!いい子だし!可愛いし!」
そう言って笑えば、エースに手は出すなよ、と睨まれる。
「ハハッ、それはお前がちゃんと見ててやれよ。誰も手出せなくしとけよ、早めにな」
そう言って末弟の肩を叩いてやれば、少し不機嫌そうに視線をユキへと流した。
「・・・あいつは、そんなもんいらねんだよ」
その意味を聞く前にガタンと立ち上がり背を向けたエースに、サッチは首を傾げた。