第33章 コック
ユキの笑い方に疑問を持っているのは、サッチだけではない。マルコと白ひげもだろう。その全員が、エースからユキの事情と言うものを把握している。
あの日、エースがユキを連れて来た日に、エースは端的に報告した。それはもう、大事なことだけ述べるような報告であったが、充分にユキと言う女を知る情報になった。
『奴隷だった。弟が殺された。復讐を終えた。』
この三つの情報だけで、彼女の壮絶な過去が窺える。しかしそれだけでなく、彼女は異質な能力者でもあった。その能力は『いつでも時を巡ることができる』。その能力が世界に与える影響は、大きなものだ。その場にいた皆が最初に危惧したこと、それは『政府に狙われている』こと。
時を巡るだけで世界政府に狙われるなんて、普通はないだろう。だが、この世界においてはそれは犯罪にしかなり得ない。この世界にある空白の100年の歴史。それを解き明かすことは許されない。世界が禁じているのだ。しかし、時を巡る能力者にとって、空白の100年を知ることは容易い。
さらにユキは、この世界のもう一つの禁じられたタブーを犯している。それはエースにも言えたことだが、世界貴族である天竜人の殺害を犯した者を、必ず世界政府は手配する。いつそうなるかは分からないが、天竜人が帰ってこないなんてことが起きれば、大事件。
ユキの存在がバレるのも時間の問題だ。そんなユキがこの船に乗ると言うことは、この船にとっては危険が増えると言うことでもある。
エースは全て話し終えた後、一つ息を吐いて、その頭を下げた。