第33章 コック
目の前でちょこちょこと動く、最近入った新入りの女の子。その腕はこのキッチンにいる誰よりも細く、少しでも重いものを持てば折れてしまいそうなくらいで、サッチは目が離せなかった。
しかし、実際働かせてみればキビキビと動き周り、その動きは目を見張るものがある。して欲しいことを言えばすぐに終わらせ、何かできそうなことがあれば手伝っていく。少しでも時間が空けば、溜まった洗い物をピカピカにする。
サッチは朝仕込みのために誰よりも早くキッチンにいるが、ユキは働き出した次の日からサッチを食堂内で待っていた。まだ薄暗い明け方、静かに誰1人いない食堂の椅子に座り、頬杖をつくユキの後ろ姿を発見した時は心臓が飛び出そうなくらいびっくりした。その叫び声にユキは振り返り、にっこり笑ったのだ。
「おはようございます、サッチさん」
「・・・お、おはよう、ユキちゃん。なんでこんな早くに?」
少し青ざめてサッチが尋ねると、ユキはなんでもないように涼しい顔をして返事を返した。
目が冷めちゃうんです、朝は早く起きないといけなかったから。
その言葉にどんな意味があるのか、サッチは知っていた。だからこそ、当たり前のような顔をして言ったユキに、キリ、と少し胸が痛む。
「・・・・・そっか、この船の奴らはほとんど寝坊する奴らばっかだからよ、助かるよ」
そう言って笑えば、ユキはにっこりと愛想のいい表情を浮かべた。