第31章 宴の後の静かな覚悟
医務室を目指していたマルコは、誰もいないその扉を開け、エースとユキに入るよう促す。
そこにある椅子にユキを座らせる。エースは座るユキと目線を合わせるためにしゃがみ込む。
「いいか?ユキ」
その優しげな声に、ユキは椅子を後ろに回し、スルリと着ていたワンピースを肩から降ろす。前を隠しながらも、ゆっくりとエースに背を晒した。
それを見るエースは、少し逡巡した後にくるっと椅子を半回転させる。
「!?」
いきなり半回転した自分に驚くユキは、それをした主を困惑した目で見る。
「・・・あのだな、俺は天竜人じゃねぇし・・・・後ろから焼かれると思い出すだろ?」
「・・・っ」
確かに一理ある、とエースにしては鋭い言及にマルコは少し驚く。一瞬息を呑んだユキ自身、きっと同じことを考えていたのだろう。後ろから力づくで焼かれた刻印は、きっと嫌な思い出でしかない。今回エースが同じように後ろから焼いてしまえば、以前と何も変わらない、もしくは何かを思い出させてしまうこともある。
それだけではない・・・その後、フラッシュバックが起きうる可能性が高い。それほど、奴隷という過去は辛いもののはずだ。
エースの言葉に、おずおずとその細い腕を伸ばしていくユキ。
自分の首に腕を回したユキを満足げに見下ろすエースは、ゆっくりと炎をその手に灯す。
するとユキの身体に力が入るのが分かり、苦笑しながら、もう片方の腕でユキを抱き寄せる。
耳元で大丈夫だ、と呟く。俺の肩に捕まってろ、噛んでもいいぞ、すぐ済む。マルコが治療してくれるからな、大丈夫だ、とできる限りの優しい声でそう言うと、コクリとエースの胸元で頷くのを確認する。
ユキの後ろで自分とは違い青い炎を出すマルコと顔を見合せ、いくぞ、と声をかける。