第2章 心をさらったあなたへ
「意外と柔らかいんですね、髪。」
もふもふと手を沈めては指を通す
引っ張られるような感じがするのは、本当に櫛で梳いているらしい。
「いつまで触ってんだてめぇなめてんのかァ」
「撫でてるんです」
「…はぁぁ…お前、気ィ抜けるなァ」
「ここでくらい気を抜いてください。ここはあなた方の戦場じゃありませんから」
いつも顔、怖すぎですよとニコリともせずに言うこの女。
愛想がどうのと俺が言えたことじゃねェが、コイツは声にも顔にもほとんど表情がなかった。
俺にビビるわけでもなく、柱だからと媚びを売るわけでもない。
正直、居心地は悪くなかった。
「熱もだいぶ下がったようです。身体はどうですか」
「あぁ…楽になった。さっぱりした感じだ」
「良かったです。お目覚めの前に身体もお拭きしましたから、ご不快でなければ何よりです」
「ちょっと待てどういうことだァ」
「そのままですが」
「……どこまで」
「全て。」
「殺すぞ」
「物騒ですね」
それだけ口がきければ回復は順調ですと、眉一つ動かさず寝台脇の紙束に何かを書き込んでいる
「…自分の性別に自覚はねェのかよ」
「一応女ですよ、多分」
「その前後の曖昧な表現は何だァ」
「…私にとって性の違いは薬剤の量など医療行為に必要な情報というだけですから。
あと、体をお拭きしたのも清拭という治療過程のひとつです。仕事であって趣味ではありませんのでご安心ください」
微妙に違う回答が返ってきた気がするが、
要するに気にするなということだろうか
がしかし、意識のないうちに女に全身を暴かれたというのは柱として、それ以前に男として忸怩たるものが…いや全てはコイツのせいだけど!!
「…てめェ覚えてろよォ…」
「…貴方の裸体をですか?」
「やっぱ今殺す」
今日わかったことが二つ。
眉一つ動かさずに爆弾発言を繰り出すこの女が、不本意ながら俺の担当医らしいこと。
あと、白衣の天使なんていねェ。