第2章 心をさらったあなたへ
ーーー夢を見た。
どこまでも透き通る、深い水底で揺蕩うような
ひんやりとした水が時折、まるで労るように俺を浚う
水の中なのに苦しくない、むしろ心地いい
あぁ、死んだのか。
信じちゃいねェが、これが死後の世界ってやつか?
急に温かい水流に背中を押され、明るい水面が近づいてくる
気泡が浮かぶように、ふわりと浮上した
ぼんやりと感じていた光が、次第に木目を表してくる
「…ぅ…」
ここはどこだ
クソ…動けねェ…
「不死川様」
かろうじて動く目で声の主を探すと、視界の端に人影が映った
「お、まぇ…」
「あなたは大怪我をして蝶屋敷に運ばれました。覚えていますか?」
どこかで聞いたような
涼やかだが抑揚のない声の女だった
(…怪我…)
「少し記憶が混乱しているようですね」
平たく続く言葉の後、首に触れた手は夢の中と同じ温度をしていた
「…脈も正常です。
よく…よく、耐えてくださいました」
熱でもあるのか、頭が回らない。
するりと離れる温度をとっさに追いかけた
「ぃ、くな……」
喉が塞がったようでうまく声が出ない
起きあがろうとした瞬間の腹の痛みが、まだ生きていると告げている
静かに振り返った気配がして、左手首にそっとあの手が乗る
「また来ます」
その声を最後に、重い身体に引きずられるようにまた闇の底に沈んだ