第2章 心をさらったあなたへ
朝
警備を終えてその足で蝶屋敷へ向かう。
「胡蝶」
「不死川さんが間に合って本当によかった。
…人手が足りず、届け物をお願いしたんです。……やはり、私が同行すべきでした。申し訳ありません」
「なんで俺に謝んだァ」
「不死川さんが”血相を変えて”千聡さんを運んできたと、きよから聞きました。」
あのマセガキ…
「…しばらくは一人にした方がいいだろ」
「不死川さんなら、千聡さんも安心するのでは?」
「はァ?」
「部屋はお分かりですよね」
コンコン
「…はい」
「…起きてたか?」
ガラッ
声だけ聞ければと思っていたが、戸が内側から開いた
「あ、オイ」
「不死川さん…どうぞ」
部屋に入ると、寝台には使った形跡がなかった
眠れてねェのか。…当然だよな
「助けていただいて、ありがとうございました。その…私が引っ掻いてしまった腕…この前のことも」
「んな事ァいいから少しくらい休め」
布団をめくって見せると、千聡の顔が曇った
「…眠れなくて」
「俺がいたんじゃもっと落ちつかねェよな。声聞けたから帰るわァ」
「やっ…、行かないで、ください…」
ピンと張りつめた糸のような声だった
「…わァったから。せめて座れェ」
少しふらつきながら、ようやく千聡は寝台に腰を下ろした
「これじゃあ、立場が逆ですね」
「大丈夫か、千聡」
「はい。不死川さんのおかげでなん、とも…」
千聡はこちらを不思議そうに見つめた後、何かに気がついたように目を大きく開いて口元を手で覆った
「な、な、名前…!そういえば、私も…!」
「そうだな」
「すみません、あの時は動転していて」
「別に謝ることじゃねェだろ」