第2章 心をさらったあなたへ
風鳴りなんかじゃねェ。雪村の声だった。
…クソ。近くまで来てるはずなんだが…
その時、通りの向こうに燃えて崩れた灯りを見つけた
間違いねェ、鬼殺隊のものだ。
「…ッ…たすけて…実弥、さん……」
「!?」
路地に駆け込んだ瞬間、予想していた中で最悪の光景に全身の血が沸騰した
着物をはだけられ髪も乱れた雪村と、それを押さえつける野郎二人。
何をしようとしていたかなど一目瞭然だった。
怒りに任せクズどもを沈め、雪村の手を取ると、俺だとわかっていないようで尚も逃げようとする
「千聡!」
咄嗟に、名前で呼んでいた。
振り回す手が数度俺の腕を引っ掻いたが痛みなどまるで感じない。
繰り返し名前を呼ぶと、ひと月ぶりに見る顔は真っ白で、俺を認めて信じられないという表情をした
「実弥、さん…?」
きっと、俺が名前で呼んだことも、俺を名前で呼んでいることも気づいてねェ。
とっていた手を緩めると、俺の引っ掻き傷に気づいたらしい
自分がボロボロの状態で俺の心配なんかしだす千聡を、気づいたら抱きしめていた
が、予想していなかった柔らかさに驚いて体を離すと、「俺なら嫌じゃない」とか言いやがった。
怖い思いしたんだから男に触れられるのなんて嫌なはずだとか、じゃあ既に抱きしめちまったこの状況はどうなんだとか、そんなことはもう知らねェ。
蝶屋敷へ鴉を飛ばし、俺の羽織を被せて抱き上げる
腕の中の重みを確かめるように抱え直し、暗闇に沈む道を駆けた
於 蝶屋敷
「千聡さん!不死川さま!」
「こちらです!」
「どうぞ!」
屋敷に着くとすぐにチビ共3人が迎えてくれた。胡蝶は任務らしい
部屋の寝台にそっと下ろすと、白かった顔には少し血色が戻っていた
「しばらく大人しくしてろ。胡蝶が戻ったら必ず診せろ」
「あ、あの、ありがとうございます」
「仕事に戻る。お前ら、雪村を頼む」
「…!!不死川さま…!」
「もちろんです!」
「任せてください!」