第2章 心をさらったあなたへ
「実弥、さん…?」
小さくつぶやくと、私を掴んでいた手の力がふっと緩んだ
その手に視線を向けると、私が引っ掻いたであろう傷が何本も赤く線を引いていた
「ぁ…私っ…ごめんなさい、ごめんなさ…っ」
急に実弥さんが視界から消えて、腕の中に閉じ込められる
「今は自分のことだけ気にしてろ馬鹿がァ」
が、すぐに、サラシを解かれ布一枚隔てただけの身体の感触に驚いたように少し体を離した
「っこのまま、」
「………」
「実弥さんなら、嫌じゃない、みたいです」
先ほどの躊躇いを振り切るように、今度はきつくきつく抱きしめられる
「……どう、して…?」
「近くを警備中だった」
「遅くなって悪かった」と、消え入りそうな声が耳元に落ちた
広い背に腕を回すと少し汗ばんでいて、私を探して走ってきてくれたとわかった。
目のやり場に困るように顔を背けながら衿を合わせ、自らの羽織を前から羽織らせてくれた。
「ありがとう、ございます…」
「胡蝶んとこ行くぞ」
実弥さんは鴉に言葉少なに何かを伝えると、私の胴にぐいと腕を回した
「ぅわっ」
軽々と横抱きに抱えられ、思わず目の前の首にしがみつく
「軽すぎだァ。飯食え」
「軽いわけないです!自分で歩きますから…っ!」
なけなしの抵抗も虚しく、実弥さんは私を抱えたままものすごい速度で走り出す。
日が沈み、人通りが少ないのが何よりの救いだった
…今顔を見られたら、舌を噛んで死ぬ。