第2章 心をさらったあなたへ
あれから一ヶ月。
不死川さんはまたあちこちへ任務へ出ているらしいけど、蝶屋敷へ来ることはなかった。確認したけれど新たな治療記録もない。
本当に怪我をしていないのなら、いいのだけれど。
「千聡さん今、お手隙ですか?」
「はい。何か御用ですか」
「これを…応急処置の道具なのですが、町の境にある藤の屋敷に届けていただけないでしょうか?」
「わかりました、行ってきます」
「すみません。隠の方達が出払ってしまっていて、私がご一緒できたらいいのですが、任務が入ってしまいまして…」
「大丈夫ですよ。そう遠くありませんから」
「ありがとうございます。お気をつけて」
日の暮れかけた通りを、小さな灯りを提げて早足で歩く。
無事に藤の屋敷に品物を届け、帰路に着いた。
すっかり暗くなっちゃったなぁ…まあ、鬼殺隊のあるこの町には鬼なんか出ないし。
そういえば鬼殺隊に来てから、住んでいる町をこうして歩いてみたことはなかったな。
ちょっとしたお散歩みたいで、少しわくわくかも。
店じまいを終え、しんと静かになった商家街をのんびり歩いていた時、家屋の間から伸びてきた腕に急に肩を掴まれ、路地に引き摺り込まれた。
「きゃあ…っ!?」
ぐしゃりと地面に落ちた灯りが、静かに燃え尽きていった
あれから一ヶ月
任務の頻度は相変わらずだが稀血を使うことが減ったのは…多分、アイツのせいだ。
今日は数人の部下と共に鬼殺隊の敷地周辺の警備に当たってる。
といっても鬼殺隊のお膝元。十二鬼月でもまずこの町には立ち入ってこねえし、雑魚鬼が入り込んだとしても所詮その程度。
何もないのがいつものことだ。
薄闇に沈む町を屋敷の塀から見渡していたとき、風に乗って何かが耳を掠めた。
「………」
風鳴りか?どこぞの痴話喧嘩か?
「…ゃ……!…して……!!」
違ェ、これは
「…警備を続けろ」
「あっ!風柱様!?!?」
焦る部下の声を背に走り出した