第2章 心をさらったあなたへ
私の『お願い』に、不死川さんは答えなかった。
「帰ってくるに決まっている」と
たった一言、その一言を言えば済んだはずなのに。
あの無言が不死川さんの優しさであることらい、わかってた。
たった3週間ほどを過ごしただけなのに、わかるようになってしまっていた。
そして気づいた。いつから、わがままを言ってもいい人だと思っていたんだろう。
ほんのいっときでも、傷ついた身体を休められる場所でありたい、それだけだったはずなのに。
私はいつからこんなに欲張りになってしまったのだろう?
目の前で大きな音を立てて閉まった戸を、ただ黙って見つめることしかできなかった。
「世話になったな」
そう返すのが精一杯だった。
「帰ってくるに決まっている」と、そう言ってやれたら良かったのか?
無性に腹が立った。俺自身にだ。
雪村には笑っていてほしい。たった3週間という期間でそんなことを思うようになってしまった。
同時に、嘘がつけなくなった。
背中に刺さる涙声が腹の傷よりも鮮やかに痛んで、その痛みを断ち切るように乱暴に戸を閉めた。