第2章 心をさらったあなたへ
処置台で穏やかに胸を上下させる男を見下ろす
(…お願いです。どうか耐えて)
処置室の外に控える隠に声をかける
「これから熱が出るでしょうから、桶に冷たい水と手ぬぐいをお願いします。
あと点滴も用意しておいてください。」
任務で負傷したという風柱様は、開腹手術に失敗したのかと思うくらいの酷い状態だった。
並の隊士なら助からなかっただろう。
音柱様風に言えば…派手に裂けていた。
下腹から胸にかけて、深く刺されたまま捻られたように組織が千切れ、酷く汚れてもいた。
もう無意識下にあるであろう呼吸を使って筋肉で血管を絞り、辛うじて腸管の脱出も抑えていたようだった。
状態を確認しながら薬湯を含ませた布で傷周辺を拭うと、大きく呻いて身を捩った
当たろうものなら顔が潰れそうな拳をすんでの所で避けるが
大きな傷が再び出血を始めた
「動かないでください。死にますよ」
そもそも生きているのが不思議なのに、これ以上の出血や強い痛みは死に直結する
これほどの傷、麻酔が効くかどうか。
…もう一つ、方法はある。
だがもし、これほどまで損傷した体が『力』に耐えられなかったら。
「はっ、はっ、はっ、はっ…」
効くかどうかわからない薬を試す猶予はなかった
彼の生きる力に、賭けよう
「スゥゥ…」
周囲の気配を探り、静かに腹に息を溜めると
伏せられた瞳が金色に色を変える
(…加減を誤ればこの人は死ぬ。)
荒い呼吸を繰り返す口に口付け、そっと『力』を吹き込んだ。
後片付けを終え病室を訪れる
熱が上がってきたのだろう。寝台の上で浅い呼吸を繰り返している
汗で張り付いた前髪をよけ、冷たい水で絞った手拭いで顔や胸元を拭く
(生きてる。…今は)
橈骨の触れを確かめながら、
管の繋がれた傷跡だらけの手を握った。