第2章 心をさらったあなたへ
「…不死川さんがお優しいので喋りすぎてしまったようです。目を閉じていただけますか」
黙り込んだ俺を見て、ふっと切り替えるように息をついた雪村がくるりとこちらを向く
「はァ?」
「お顔を拭いていませんでしたので」
「…そうかよ」
つつ、と前髪を分けると、温かい布が顔の上を滑る
「熱くないですか」
「あぁ」
「………この、傷は」
「っ…」
突然目元をなぞるように触れた冷たい感覚にどきりとして、咄嗟にその気配を掴んだ
「ぁ、」
こちらに伸ばしていた左手を掴まれた雪村が、小さく息を呑んだ
「…悪ィ、急に手が来たもんだから驚い………?」
掴んだ布の下にあるものが
人の肌ではないような…なにか硬い不思議な感触だった
引こうとする雪村の腕をぐっと引き留めると
「…っ離して!!!」
表情の読みづらかった顔に初めてはっきりと見えた感情は『怯え』だった。
「…すみません、もう失礼します」
手早く俺の腹に包帯を巻き直し道具をまとめて戸口に向かう背中に声をかける
「なァ雪村」
「………」
「…明日も来いよ」
「……失礼します」
コトリと
戸が閉まった
雪村が去った扉を見つめる
アイツの腕…妙な感触だった。
古傷でもあんのか?そんなに痛むほどの強さで掴んじまったか?
だがあの動揺の仕方は尋常じゃなかった
それと関係あるかはわからねェが…前から感じていた違和感が確かなものに変わった。
体質だとは聞いていた。
だが夏だというのに長袖を着て、更に湯を扱っていた雪村の指は
変わらず冷たかった。
それにこの前の…痛みがひくようなあの感覚も
まぁこんな組織だし、毎日顔を合わせていようが、誰にでも言いたくねぇことの一つや二つあって当然だ。だが…
ほとんど表情を見せねぇ顔の内側に、何を隠してる?
…クソ。少しは休めと思っていたのも嘘じゃねェが、前言撤回。
アイツ、ちゃんと明日も来んだろうなァ?