第2章 心をさらったあなたへ
不死川さんの弟さんへの態度には少し驚いた。
あんなに心配してくれているのに、『弟はいない』なんて。
「テメェに何がわかる」
それはそれは怖い顔で睨まれたけれど
…人間の悪意や敵意には嫌というほど触れてきたから、わかります。
言葉遣いは悪いし顔は怖いし傷だらけだけど、ふとした表情や声音から…不死川さんがとても優しい人だってことくらい。
あなたが何の理由もなくそんな態度を取らないことくらい。
自分でもよくわからないけれどなぜか、この人が心から笑える日が来てほしいと願わずにはいられなかった。
よほど以前のことが響いているらしく、『上だけだ』と不本意そうな顔で清拭を了承してくれた。
本当にどこもかしこも傷だらけで、こちらの体まで痛くなりそう…
治療記録を読み返すと、殆どが自傷だった。
それも自分で適当に縫ったとか、放置して化膿とか、よく柱を続けていられるものだと思う。
蝶屋敷に置いてもらえるようになってからもほとんど使うことのなかった水癒を既に何度か使っているのはきっと、この人の秘めた危うさのせい。
全集中の常中を会得しているというだけではない。
彼の中には常に、何か張り詰めたものがある。
柱という圧倒的な強さの陰に隠れて見えないその何かを、知りたいと思った。
夥しい数の傷は、それだけ鬼を倒した、つまり人を守ったということ。
じゃあ傷だらけのこの人のことは、一体誰が守るのだろう?
生きている限り、傷つけば痛い。
生きている限り、その痛みは癒せる。
…生きている限り。
少しでも心休まる時間を私があげられていたらと思うのは、烏滸がましいかもしれないけれど。