第2章 心をさらったあなたへ
コンコン
「実弥さん、失礼します」
ブフォッ
飲んでいた水を盛大に吹き出した
「おはようございま…どうされました?戸は叩いたのですが」
「ゲホッゴホッゴホッ…」
持っていた大きな桶を机に置き、布巾で濡れた胸元を拭われる。どうされましたじゃねぇよ。
「名前で呼ぶんじゃねェ…」
「あぁ、すみません。不死川くんと被ってしまうと思いまして」
「あ?」
「弟さん、可愛らしい方ですね」
「俺に弟はいねェ」
「昨日検診に来ていらっしゃいました。
玄弥くんと呼んだら脈が上がってしまって検査になりませんでした。お年頃ですか」
「だからんなもんいねェって言ってんだろォ」
「…大切なんですね」
睨みつけた雪村の横顔は逆光になってよく見えない
「テメェに何がわかる」
「何も。
ただ、どうでもいい人にとる態度ではありませんから。」
「それ以上言うとテメェもここでぶち殺すぞ」
「それは…まだ厳しいと思います」
こちらに向き直った雪村は真剣に顔を曇らせていた。腹立つ。
「傷を見せてください。…ちょっと身体起こします」
掛けていた布団を腰までおろし、
包帯を手際よく解いていく
「病衣まで崩して着るんですね。そういうご趣味ですか」
「オイ人を変態みたいに言『丁度いいです、体もお拭きします』話を聞け。んでそれ以上触んなァ」
傷を診ていた雪村がほっとしたように口を開いた
「素晴らしい回復力です。明日あたり少しずつ食事を始めてみましょう」
ここ数日顔を合わせていたからか、本当に僅かにだが表情の変化が分かるようになってきた。
今、彫り物みてぇな目が少し解けたか?
「では拭きますね」
「いやもういい触んな帰れェ」
「清潔は回復への第一歩です」
「普通に風呂入りゃあいい話だろ」
「抜糸がまだなので許可できません」
「じゃあ自分でやる、貸せ。…っ何しやがる」
ぐっと体を起こそうとすると、雪村が黙って俺の眉間あたりを押さえている。クッソ起き上がれねェ…
「チィ…上だけだァ」
不本意だがこの屋敷の女には逆らわないに限る。…非常に不本意だが。