第6章 熱に焼かれる
「杏寿郎さんと恋仲になってしばらく経ちますが‥私たち、まだそういった行為をした事がないんです」
「あら、そうなんですか。とても仲がよろしいので私はてっきり‥」
私は恥ずかしげもなく、しのぶさんになんの話をしているのか。頭の片隅に残っている冷静な自分が突っ込む。でも自分の気持ちに整理をつけるため、この話もどうしてもしのぶさんに聞いてもらいたかった。
「わかってるんです。杏寿郎さんは誠実な方だから、正式に婚約を交わすまでは‥と思っているんだろうなって。でもどうしても、私に女性としての魅力が足りないんじゃないかって‥考えてしまうんです」
「成る程」
「杏寿郎さんは女性から好意を向けられることも多くて、ましてや自分よりもずっと綺麗だったり可愛い人に迫られている姿を見ると‥なんだか自分がとっても惨めに思えてくるんです」
「そうですか」
「だから‥悔しかった部分もあったんだと思います。痛いところを突かれたと言いますか‥。で、そのおまけがあの口付けです」
私の杏寿郎さんなのに。
それが嘘偽りのない本音だ。
「ナオさんは本当に煉獄さんが大好きなんですね」
「‥はい」
しのぶさんに話すことでかなり心は落ち着きを取り戻した。あのシーンを思い出すと心がスッと冷える感じは消えないが、杏寿郎さんの顔を見たくないとは思わなくなった。
「ナオさんは、そのお気持ちを煉獄さんに伝えたことはあるんですか?」
「‥いいえ、ありません。こんな恥ずかしいこと‥言えるはずありません」
嫉妬する醜い自分を、杏寿郎さんとそうなりたいと望む自分を、‥知られるのは怖い。
「それはいけませんね。恋人とはそう言った、他人には見せられない内なる部分も見せ合ってのものではないでしょうか」
「‥そういうものですか?‥嫌われたり‥しませんか?」
「私個人としてはそう思います。少なくとも煉獄さんは、ナオさんの事を心から愛しているように感じるので、むしろ喜ぶのではないかと」
そうなのだろうか。
「だからその女性に口付けられてしまった件に関しては、悲しかった事を包み隠さず煉獄さんに伝えれば良いんです。それができたら、今度はゴミみたいに綺麗に頭から捨て去った方が良いんです。二度と会うこともないでしょう?そんな人間にいつまでもかき回されるのは良い事ではありません」