第6章 熱に焼かれる
杏寿郎さんは帰る気になってくれたようだ。こんなにも大好きなのに、今日は杏寿郎さんと顔を合わせなくて済むと思うとホッとしてしまった。なのに
「ナオ!言い訳はしない!だが君の顔を見ながらきちんと話をさせて欲しい!‥明日、必ず迎えに来る!」
そう言い残し「騒がせてすまなかった。失礼する」と杏寿郎さんは帰って行った。
足音が完全に遠のいた後、扉がガラリと開く。
「あらあら。まだ泣いているんですか?そんなに泣くと、目がパンパンに腫れてしまいますよ」
折角止まった涙は、杏寿郎さんの言葉によってまた流れて来てしまった。
「‥ごめんなさい‥」
「だから謝る必要はありません。さて、お茶でも飲みながら話をしましょうか」
そう言ってしのぶさんはすみちゃん、なほちゃん、きよちゃんの3人にお茶とお菓子を持ってくるように言った。まるで、かつてカナエさんがしのぶさんにお願いした時のように。それがまた私の心を少しだけ救ってくれた。
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「成る程。そんなことがあったんですね」
私はことの次第を洗いざらい話した。泣いて、きっと支離滅裂になっていた内容もしのぶさんは嫌がる様子もなく聞いてくれた。
「正直な方ですからね。自分が嘘を吐かれると思わなかったのでしょう」
そう。杏寿郎さんは悪くない。悪いのは嘘をついたあの女性だ。でもそんな嘘に騙されて、唇を奪われるなんて事して欲しくなかった。なんだ、やっぱり杏寿郎さんも悪いじゃないか。
「‥あんなあからさまな嘘に引っ掛かるなんて‥柱のくせに信じられません」
「あらあら、柱だって騙されることはありますよ。まぁ、私はありませんけど」
そう言って微笑むしのぶさんに、私も釣られて笑った。
「私から見れば煉獄さんも被害者です。話くらい聞いてあげても良いんじゃないかと、私は思いますが」
それは私もわかっていた。でも頭では理解していても、まだ心が追いついてくれない。
「‥私、杏寿郎さんが初恋で、恋仲になるのも、‥口付けを交わしたのも、全部、杏寿郎さんが初めてなんです」
恐らく杏寿郎さんも。だからこそ、余計嫌だった。2人の、2人だけの初めてに、赤の他人が土足で踏み入りぶち壊しにされた気分だった。
「それにあの人、言ってたんです。"私の方が床上手"だって‥」
そう。遠耳に聞こえていた。