第13章 暖かく和やかに
「杏寿郎さん」
「ナオ!聞いてくれ!奏寿郎が俺の顔をじっと見つめてくれたんだ!なんと可愛らしい」
きっとまだ、奏寿郎の目はそこまで見えない。それでも、そう嬉しそうに言う杏寿郎さんが堪らなく愛おしい。
「…杏寿郎さん」
噛み締めるかのように杏寿郎さんの名を再び呼んだ私の様子を不思議に思ったのか、杏寿郎さんが首を傾げこちらを見た。
「む?どうした?」
「……もう、寂しくはないですか?」
私の質問の意図がわからなかったのか、杏寿郎さんは眉間に皺を寄せ、意味がわからないと言う顔で私を見る。
「こんなにも愛おしい妻と息子がいて寂しいわけがないだろう。何故そんな事を聞くんだ?」
「…いいえ。なんでもありません」
そう言って笑う私に
「おかしなナオだ。なぁ、奏寿郎」
と言いながら杏寿郎さんは奏寿郎の鼻に自分の鼻をスリスリと擦り合わせる。
こんな幸せがずっと続いて欲しい。
「あ!杏寿郎さんずるい!私にもやって下さい!」
「む?そっちなのか?」
杏寿郎さんは奏寿郎を大事に抱えたまま走り寄る私に合わせて屈むと、奏寿郎にしたのと同じように私の鼻にその鼻をスリスリと擦り合わせてくれた。
「ふふっ。ありがとうございます」
そう言いながら私は、杏寿郎さんの腰に右腕を回した。
「ナオのお願いとあらばいくらでもしよう!」
杏寿郎さん、奏寿郎、そして私の3人は仲良く煉獄家の門をくぐり、家の扉を開ける。
「「ただいま戻りました」」
私は願うよ。
杏寿郎さんの日々が
これからも
陽だまりのように
暖かく和やかなものでありますように。
ずっとずっと
そばにいさせてね。
暖かく和やかに
-完-