第6章 熱に焼かれる
「ナオさん、何かご用ですか?」
ご用は‥ないのだけれど。気持ちの問題なのか、息が中々整わない。
「‥すみません‥用は‥ないんですけど‥」
「ではどこかお怪我ですか?」
「‥怪我も‥ないんですけど‥」
そう答えた私の様子にアオイさんは首を傾げている。用も怪我もない。ただ私がいつもと様子が違うことは伝わったのだろう。
「しのぶ様に会われますか?」
いつものキリッとした顔ではなく、少し眉を下げ困惑した様子でそう聞いてくれた。私を心配してくれているのだろう。黙ってコクリと頷き、「どうぞ」と言って踵を返すアオイさんの後にトボトボついて行った。
「あら。誰かと思えばナオさんでしたか。あんなに大きな音を立てて、どうかしましたか?」
アオイさんは私をしのぶさんのいる部屋まで案内すると、朝食の準備中だからとすぐに出て行ってしまった。
「‥ごめんなさい‥ちょっと‥力の加減が出来なくて‥」
「そうですか。あなたにしては珍しいですね」
しのぶさんは私の様子にすぐ違和感を感じたのか、書いていた書類を机にしまい、私に向き直る。
「突然ごめんなさい‥ここ以外‥思いつかなくて‥」
早朝に急に押しかけるなんて、迷惑以外のなんでもないことは十分わかっていた。それでもここ以外、どうしても思いつかなかった。
「‥何か、訳ありのようですね。私でよければお話、聞かせてもらっても良いですか?」
その言葉に、私の涙腺はとうとう崩壊した。「あらあら」なんて言いながら私の目からボロボロ流れる涙をしのぶさんはハンカチで優しく拭ってくれる。扉の入り口ですみちゃん、なほちゃん、きよちゃんが心配そうにこちらの様子を伺っているのはわかったがそれでも一度溢れてしまった涙を止めることはできなかった。
その時
「失礼!ナオはいるだろうか!」
と杏寿郎さんの声が蝶屋敷に響き渡る。私の身体はその声にビクリと大きく反応してしまう。まさかこんなにも早く来てしまうなんて。私はまだ杏寿郎さんの顔を見る勇気がない。
「すみ、なほ、きよ。悪いんですが煉獄さんを足止めしてきてもらえますか?」
杏寿郎さんが来て明らかに動揺する私に、しのぶさんはそう言ってくれた。
「「「はい!お任せください!」」」
3人はと声を揃え応えると、パタパタと玄関へと向かって行った。