第6章 熱に焼かれる
杏寿郎さんと恋仲になってからしばらく経った。任務、鍛錬時は継子として厳しく、それ以外の時は恋人としてまぁまぁ甘い時間を過ごしていたのではと思う。杏寿郎さんは想像を遥かに超えた愛情表現の豊さと、その正直な性格ゆえ、私は蕩けてしまうのではと思うほどの愛を感じている。そのせいか、自分の知らぬ間に杏寿郎さんと私の仲は周知の事実と化していた。それでもあわよくばと杏寿郎さんに好意を示して来る女性隊士も中にはいた。それも杏寿郎さんが「俺には愛する恋人がいる故、君のことは好きにはなれない!他を当たってはくれないか!」と、一蹴するのもだからその内そんな強者もいなくなった。
そう。隊士には。
その日助けた女性は、その地域で名の知れた遊女だと言った。その女性はあろうことか「命を救っていただいたお礼です。私を好きに抱いて下さい」と杏寿郎さんに迫っている。もちろん杏寿郎さんはいつもの如く即断った。だがその遊女も中々諦めてくれず、隊士ではない人間をあまり無碍には出来ないと思い遠慮しているのか、杏寿郎さんはなかなか離してもらえなかった。
「‥柏木さん、大丈夫ですか‥?」
私と杏寿郎さんの関係を知っている女性の隠が心配そうに聞いてくる。
「‥大丈夫‥です。さ!早く事後処理して帰りましょう」
杏寿郎さんが綺麗な女性に迫られているところなんて見たくもない私は、隠と一緒に事後処理をすることに集中した。
「いい加減にしてはくれないだろうか」
杏寿郎さんの普段からよく通る声が、いつもより大きく辺りに響き渡る。
「俺にはナオがいる!他の女子に興味はない!今ここで彼女の前でくっつかれるのも不快だ」
そう言い切る杏寿郎さんに、女性は私の事を認識しているのかこちらをギロリと睨む。
いや‥睨みたいのはこっちの方だ。
プライドを傷つけられたであろう女性はしばらく私を睨み続け、杏寿郎さんに視線を戻す。
「‥わかりました。まぁ別に、お礼のつもりで仕方なく申し出たまでなので!では、これで失礼します」
ようやくこの地獄から解放されるとホッとしたのも束の間
「あ、頭に砂がかかっております。彼女の元へ行くのにそれでは格好悪いですよ。払って差し上げるので屈んでください」
なんだそのあからさまな嘘、と私は思った。なのに
「うむ!すまない!」
と杏寿郎さんは言葉の通り屈んだ。