第5章 隠せない隠さない
戻ってきた杏寿郎さんが持っていたのは杏寿郎さんがいつも着ていた羽織。
そうだ。私、杏寿郎さんの予備の羽織をもらう約束をしたんだった。
「これ‥本当にもらって良いんですか?」
「うむ!そう約束していただろう。それに君の羽織は消毒液まみれになりダメになってしまった。その代わりだ。俺は炎柱になった故、同じものは着れないがそれでも良ければこの羽織を着て欲しい!」
なるほどそう言うことか。治療やら報告やらに気を取られ、自分の羽織の所在なんてすっかり忘れていた。差し出されたその羽織を受け取り、じーっと見つめる。
杏寿郎さんの羽織だ。いつも杏寿郎さんが着てたあの。
広げてみると、私が着るのには少し大きい。でも絶対にこれが着たい。お揃いじゃなくても構わない。袖を通してみると、フワリと香る慣れ親しんだ匂い。もっと嗅ぎたくてスンスンと羽織を嗅ぐ。
「‥杏寿郎さんのにおいがする‥」
はぁ。これから毎日この羽織を着て過ごせるなんて幸せ。
なんて自分の世界に完全に入り込んでいた。
「‥あの‥ナオさん‥」
はっと我に返った時にはもう遅かった。恐る恐る杏寿郎さんをみると、瞳が落っこちて来るんじゃないかと言うほど目を見開いている。
「‥私‥もしかして‥声に出していましたか‥?」
私のその問いに千寿郎さんは、顔を赤くしながらとても申し訳なさそうに「‥はい」と答えた。
杏寿郎さんはツカツカとこちらに来たかと思うと私の腕を引っ掴み、千寿郎さんに「少し待っていなさい!」と早口で言い残し、少し離れた部屋まで連れていかれた。
パタリと襖が閉じたとほとんど同時にギュッと強く抱きしめられる。その力強さに思わず「うっ!」っと声が漏れた。
「‥君はわざとやっているのか?」
何をと聞き返すほど私も鈍くない。でも自分がとった行動が今更ながら恥ずかしすぎてフルフルと首を小さく振ることしかできない。
「頼むからあまり煽らないでくれ。君を大切にしたいと思っている」
杏寿郎さんが好き過ぎてつい‥なんて言えるはずもない。
「千寿郎さんの前で‥すみません。以後十分気をつけます‥」
「是非そうしてほしい!」
杏寿郎さんはチュウっと奪うように私に口付け、千寿郎さんの待つ部屋へと先に戻って行った。当の私は、顔の熱を少し冷ますため数回深呼吸をし、それが引いたのち部屋を後にした。
